2013年01月09日

3億ドル宝くじ当選 悲劇の幕開け

 米ウェストバージニア州の建築業者、ジャック・ウィテカー氏(65)は、貧しい田舎暮らしから従業員100人あまりを抱える実業家へと上りつめた人物だ。数年前までは億万長者だった。

 しかし2002年のクリスマスの朝、同氏がそれまでの人生で築き上げたすべては擦り切れた革財布の中の紙切れ1枚であっけなく崩れ去ることとなる。それは米高額宝くじ「パワーボール」の1ドルくじだった。

 ◆幸運のクリスマス

 ウィテカー氏はクリスマス・イブにコンビニエンスストアでベーコンパイ2つと一緒にこの宝くじを購入。この日の誤放送では1桁違いで当選を逃したと思い込んだが、クリスマス当日の朝、テレビはウィテカー氏のくじ番号を1桁違わず読み上げた。

 「胃がおかしくなって、しばらく言葉が出なかった」。コンビニエンスストアでレジの女性に当選したことを伝えると、「当選したにしては落ち着きすぎている」と信じてもらえなかった。

 ウィテカー氏は妻のジュエルさん、娘のジンジャーさん、そして当時15歳の孫娘、ブランディ・ブラッグさんとともにウェストバージニア州のボブ・ワイズ知事から賞金の小切手を受け取るテレビの生中継に出演した。10月末のハロウィーン(万聖節)以降、当選者が出ず賞金額は積み上がっており、3億1490万ドル(現レートで約270億6900万円)にまで押し上げられていた。個人で当てた宝くじとしては史上最高額だった。

 ただウィテカー氏は29年間の分割払いの代わりに一括払いを希望したため、賞金額は1億1338万6407ドル77セントに減額され、さらに税金が引かれて手元に残ったのは約9300万ドル。新聞で報道された額のたった30%ほどだった。

 ウィテカー氏は記者会見で、クリスマス前に解雇した25人の従業員を雇い戻し、学校や州の福祉事業に寄付するほか、自分にはヘリコプターを、妻のジュエルさんにはイスラエル旅行をプレゼントしたいと話した。金髪と薄茶色の瞳が美しい孫娘のブラッグさんは、ラップスターのネリーに会いたい、スポーツカーも欲しいと無邪気に語った。

 ウィテカー氏の善意は即、幅広く行き渡った。コンビニエンスチェーンの経営者には当選くじを販売してくれた謝礼金として10万ドルが贈与され、ベーコンパイを売っていた女性販売員までもが新車と新居のプレゼントを受け取った。ウェストバージニア州は賞金の6.5%課税で学校と高齢者向け事業の資金1100万ドルを得た。

 貧困層への施しも約束通り実行された。ウィテカー氏は教会2つの建設に700万ドル寄付し、1400万ドルを投じて貧困救済を目的とするジャック・ウィテカー財団を設立。リトルリーグの球場を改修し、地域の子供たちのために運動場と絵本を購入する費用として多額の寄付を行った。

 宝くじの高額当選者が身を滅ぼす話は枚挙にいとまがない。だがウィテカー氏のように貧乏から独立独歩で裕福になった実業家であれば、突如手に入った富を有効に活用できると期待するのも当然だ。10年後に当の本人が、あのとき当選くじを破り捨てていればよかったと思うなど、誰に予想できただろう。

 ◆次々と起こる事件

 ウィテカー氏の転落の幕開けはストリップクラブ「ピンク・ポニー」での事件だった。03年8月、ウィテカー氏は同店の駐車場から、薬を盛られて車上荒らしにあったと通報。米ゼネラル・モーターズ(GM)の大型高級車「ハマー」から多額の現金が盗まれたという。1時間後、ウィテカー氏が雇った私立調査員はごみ箱の脇に捨てられた現金54万5000ドルを発見した。クラブの経営者とその恋人が強盗の容疑をかけられたが、起訴には至らなかった。

 この1件から3カ月もたたないうちに、今度はウィテカー氏本人がハマーを中央分離帯に突っ込み、逮捕された。警官のM・J・ピナルド氏は「アルコール臭がしたが、アルコール検査を強く拒否された」と述べている。同氏の車内からは小型拳銃と現金11万7000ドルが発見された。

 翌04年1月には、お金に対するウィテカー氏の無頓着さがさらに大きな代償をもたらした。ウィテカー氏は泥酔して道路の真ん中に停車してその場を離れ、戻ってきたときには助手席に丸出しで置いてあった現金10万ドルが消えていたという。警察が到着し、ウィテカー氏は飲酒運転の罪に問われた。

 ウィテカー氏はあまりにも多くの問題を抱え込んでいた。あるとき同氏は宝くじ当選後、約460件の訴訟に巻き込まれたと推計したが、その後、訴訟件数はさらに膨れ上がった。賞金を狙う恐喝めいたものも多かった。

 04年9月にはウィテカー氏の自宅に孫娘、ブラッグさんの友人の男4人が強盗に入った。うち1人は薬物の過剰摂取により、ウィテカー邸で死亡しているのが発見された。

 そして同年12月20日、5日前から失踪していたブラッグさんが郊外に打ち捨てられた自動車の陰で遺体になって発見された。ブラッグさんの体内からはコカインとメタドンが検出され、死因は薬物の過剰摂取と断定された。告別式はクリスマス・イブに行われ、ラップスター、ネリーの曲が流された。

 無残なブラッグさんの死は悲劇の幕切れではなかった。08年4月、妻のジュエルさんとの離婚が成立し、42年の結婚生活に終止符が打たれた。

 翌年7月には娘のジンジャー・ウィテカー・ブラッグさん(42)が自宅で死亡しているのが発見された。(ブルームバーグ David Samuels)


posted by 宝くじ at 15:42| Comment(0) | 高額当選者の話 | 更新情報をチェックする
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